朝起きるとすでにマンマはキッチンに立ち、ラジオを聞きくわえ煙草で鼻歌を歌いながら皆の為にエスプレッソマシーンを沸かしている。私の顔を見るやいなや「ブオンジョルノ〜マミ〜！」と大きな声で満面の笑みで挨拶してくれる。「ソンノ？ドルミート　ベネ？　カルド？　スタンガ？　眠い？良く寝れた？寒くない？疲れてない？」とさりげな〜く気遣いながら「プレーゴ！さあどうぞ」と元気良く可愛い鍋敷きにエスプレッソマシーンと鍋に沸かしたミルクをそのままドーンと並べてくれる。お礼を言う隙も与えず今度は窓から空を見上げ「ソーレ、ソーレ（太陽！太陽！）」とはしゃぎまくる。朝食は家族全員バラバラ。だからマンマは早起きして１人１台分のエスプレッソマシーンを沸かしている事になる。食卓には市販のマフィンやビスコッティーが並んでいるが誰も手をつけようとしない。意外な事に皆殆ど何も食べずカッフェのみで簡単に済ませているではないか？（子供達は粉末チョコレートにホットミルクを入れて飲んでいた）食の国イタリアからはちょっと想像もつかないような朝食風景であった。でもイタリアの朝は陽気なマンマの歌声、薫り高きカッフェと共に太陽の日差しに包まれ毎日元気にスタートするのだ。

皆出かける時は必ずキッチンのマンマの所に寄る。「帰る時電話するのよ。なるべく早くね！」思春期の子供達を心配しながらも「どうせ言う事聞かないんだから」というニュアンスで子供のようにおどけて私に目配せしてくる。皆を送り出した後は外に出て暫く太陽を見上げたりお花を見て周ったりする。朝のひと仕事終えたマンマの唯一ホッと息つけるひとときだ。しゃがんで花びらに触れたりしていたかと思っていたら、急にハーブや野生のアスパラガスを勢い良く摘み始める。豪快にむしり終えると「いい汗かいたわね、少しは痩せるかしら？はっはっは」と笑いながらキッチンへ戻る。私が勧められたクッキーをむしゃむしゃほうばってる間に、マンマはおもむろに小麦粉をボールに入れ始めている「そこの卵取ってくれる？」どうやら私の知らない間に料理が始まっていた。「さあ作るわよ！」なんて意気込みは微塵も感じられない。ゆったりした空間の中でたっぷり時間をかけ、休憩や味見や脱線をしつつ楽しく作るのがイタリア流